【書評】なぜ人と組織は変われないのか(ロバート・キーガン、リサ・ラスコウ・レイヒー著)
- 人は何歳になっても成長できる
- 課題には技術的な課題と適応を要する課題とがある
- 「免疫マップ」で変革を阻害するに隠れた意図に思いをめぐらす
- 免疫マップの考え方は個人でもチームでも有効
- そしてやはり心理的安全性が大事
『人に頼む技術』を読んで、仕事が大変になる前に人に頼ろうと心に決めたのに、また仕事を抱え込んでしまう私。なぜ人は変われないのでしょうか(そんな大層なものではないか)。
そんな私の前に、そのものずばりのタイトルの本書が。さっそく手に取って読んでみました。
著者のロバート・キーガン教授は、ハーバード大学教育学大学院の教授。発達心理学の大家です。ある確信をもって本書を書いたとのことです。
人は何歳になっても成長できる
その確信とは「人は何歳になっても成長できる」ということです。なんと30年前は人間の知性の発達は肉体的発達と同じように考えられていて、成長は20歳代でほぼ止まると考えられていたそうです。
しかし、現在では以下の図のように、人間の知性は大人になってからも年齢を重ねるにつれて向上していき、そのプロセスは高齢になるまで続くことが分かっています。また、グラフの曲線に台地状のところがあるように、発達が急速に進む変革期とほぼ止まる安定期が交互に訪れ、変革期を経て新しい台地に達すると、ある程度その期間にとどまる場合が多いそうです。そして、人の知性の発達段階には質的に3段階あり、環境順応型、自己主導型、自己変容型に分けられます。下のグラフの曲線が次第に細くなっているのは、高いレベルの台地に進むほどその段階までたどり着く人が少ないことを表しています。自己主導型知性の段階より上に到達している人の割合は10%未満、自己変容型知性には1%未満とみられるとのこと。
段階 | 特徴 |
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環境順応型知性 |
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自己主導型知性 |
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自己変容型知性 |
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なお、会社では自己主導型のリーダータイプでも、家庭では環境順応型のメンバータイプという場合もあります。一度ある発達段階に達したら一様にそうなるわけでもなく、また固定されるものでもないようです。
課題には技術的な課題と適応を要する課題とがある
人が直面する課題には「技術的な課題」と「適応を要する課題」とがあり、知性の発達が必要な適応を要する課題に、技術的に対応してもダメだそうです。しかし、多くの組織では職業上の能力開発がそのような発想になっていませんし、多くのリーダーはこの問題を理解していません。知識の伝達に主眼が置かれたこれまでの学習プログラムでは、コンピューターに例えれば、新しいファイルやソフトウェアを追加することはできても、OSそのものをアップグレードすることはできないのです。
「免疫マップ」で変革を阻害するに隠れた意図に思いをめぐらす
適応を要する課題に対しては、自己の成長が必要になります。しかし、その自己変革の目標と逆の行動(阻害行動)をとってしまうことが往々にしてあります。これを本書では「変革をはばむ免疫機能」と呼んでいます。免疫機能は、変革目標に対して阻害行動となって表れます。阻害行動の裏には隠れた意図や意図せざる深層心理があり、さらにその奥には強固な固定観念がある。まるでアクセルを踏むと同時に(知らず知らずのうちに)ブレーキも踏んでいて、なぜ前に進まないのか本人も分からない状態のようです。
阻害行動を減らすには、隠れた意図や強固な固定観念を見える化して、働きかけることが必要ということでした。そのためのツールが「免疫マップ」です。
以下に「重要な課題に時間とエネルギーを集中するために部下に権限移譲したい」という目標を立てた管理職の「免疫マップ」の例を紹介します。
改善目標 | 阻害行動 | 裏の目標 | 強力な固定観念 |
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免疫マップの考え方は個人でもチームでも有効
個人で「免疫マップ」を使えば、変わりたくない自分の隠れた意図や強力な固定観念を見える化でき、それへの対処を考える契機にすることができます。
またチームで「免疫マップ」を使うことで、メンバー間で変革を阻害する感情や固定観念の認識を合わせることが、共通言語を用いてできるようになります。注意しなければならないのは、「免疫マップ」に出てきた固定観念は必ず変えなければならないものではないことです。その価値観を尊重したまま、阻害要因を取り除くことだってできるかも知れません。まずは裏の意図や固定観念があることを認識することが、解決の第一歩となるということです。
そしてやはり心理的安全性が大事
そして適応を求められる課題に対応するための組織学習にあたっては、やはりその組織において心理的安全性が確保されていることが重要な要素となります。
変革を阻む免疫機能の診断・克服のプロセスは、未達成の目標を「よい問題」に転換し、自己変革のために必要な学習を促す機会といえる。しかし、試練だけ持ち込んで、試練と向き合うときに感じる不安をやわらげてあげることを怠れば、変革の取り組みは期待外れに終わるだろう。(p415-416)
失敗を許容し、失敗から学ぶという姿勢が、変革を求める場合にはやはり大事なのだとよく分かりました。
本書の「免疫マップ」の考え方は大変参考になりました。自分でも知らず知らずのうちにブレーキをかけているということを見える化できれば、対処のしようもあるというものです。これを機に自分の固定観念を見つめなおし、仕事が大変になる前に人に頼ろうと思います。