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【書評】入門 組織開発(中村和彦著)

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Photo by Cherrydeck on Unsplash
なぜ、職場が楽しくないのでしょうか。働くなら楽しい職場で働きたい。そう思うのは私だけではなさそうで、活き活きと働ける職場をつくる「組織開発」という考え方があります。
「組織開発」とは組織のハードな側面(戦略、構造、人事制度など)だけではなく、「人」や「関係性」という組織のソフトな側面にも光を当てて変革に取り組むアプローチとのこと。組織開発を学んだら職場が少しは活性化するものでしょうか。南山大学の中村和彦教授による『入門 組織開発』を読んでみました。

組織の人間的な側面の課題

前述のように組織には「ハードな側面」と「ソフトな側面」とがあります。
組織のハードな側面とは、形があるものや明文化されたもののことで、組織の部門や部署などの組織構造や組織デザイン、制度や規則、職務内容や仕事の決められた手順、戦略や理念などを指します。
組織のソフトな側面とは、人に関するさまざまな要素、たとえば人の意識やモチベーション、人々の思い込みや前提、コミュニケーションの仕方、協働性や信頼関係、お互いの影響関係やリーダーシップ、組織の文化や風土など、刻々と変化するものを指します。

バブル経済崩壊後の「失われた10年」の間は、短期間で会社を立て直す必要があり、即効性があるハードな側面の変革が優先されました。この時期に日本企業が重視した、短期間で成果を得るという効率性重視の考え方は現在も根強く存在しています。そして今でも、ハードな側面の変革を重視して、長期的な体質改善を軽視している経営者は多そうです。

しかし、現代の日本の組織はソフトな側面、人間的側面に多くの課題を抱えています。それが職場が楽しくない原因だと思います。

  1. 活き活きとできない社員
    今の50代以上の上司は入社時に上意下達で育ってきた世代で、仕事は辛いもので人は生まれつき仕事が嫌い、したがって人には命令と監督が必要で、目標に達しない場合は罰則を与えることが必要というマネジメント観を持つ人がまだまだ多くいます。そのため、部下や若手の主体性を育むことを阻害します
  2. 利益偏重主義
    売上や利益などの経済的価値のみを追求する利益偏重主義は、社員の主体性や内発的動機づけを低め、社員を疲弊させ、結果的には長期的な利益を生み出す組織体質ではなくなっていきます
  3. 個業化する仕事の仕方
    ある仕事が個人に割り当てられ、その仕事を1人ですることを個業といい、IT化により個人の作業中に他の人が手を出しにくくなる状態が生み出されています。特に個人の業績に対して報酬が決まるタイプの成果主義が背景にあるとより個業化が進みます
  4. 多様性の増大
    最近では男性の正社員のみで構成されている職場は滅多になく、さまざまな人種、民族、言語、宗教、障害、価値観、雇用形態の人々によって構成され、職場の多様化が進んでいます

いま現代の日本の組織では、かつて日本人マネージャーが経験したことがない多様で複雑な関係性のマネジメントが求められています。

組織開発はソフトな側面の体質改善

このような組織の人間的な側面の課題に対応するのに、「働くモチベーションを高めるには成果主義を導入すれば良い」という制度を通じて解決を図るのでは足りません。このような発想は、ハードな側面の変革にとどまります。
そうではなく、組織のソフトな側面の課題を解決するには、長期的な組織の体質改善の視点が求められます。
職場や組織の人間的側面、つまり人の意識やモチベーション、お互いの関係性や協働性を良くしていく理論や手法の体系が「組織開発」です。

組織開発の掴みどころの無さ

本書によれば、組織開発はベースとなる価値観が重視されるため「何を行うか」という「手法」で説明することは困難であり、それよりも改善や変革を促進することを目指した、当事者との関係構築に向けた「あり方」が大切だ、とのこと。なるほど「組織開発が理解できた」という感覚がなかなか得られなかった理由はそういう現状即応的で決まった型がないところにあったのですね。
それでも、本書では、組織開発の進め方の具体的な進め方が紹介されています。なかでも『謙虚なリーダーシップ』の著者であるエドガー・シャインの「プロセス・コンサルテーション」という考え方は、これまで本で学んできたことの土台となるものだと感じました。なお、「プロセス・コンサルテーション」は、グループまたは組織のクライアントが自分たちのプロセスに気づき、自らプロセスの変革に取り組むことを支援するアプローチです。

経営者に求められる信念

組織開発を本当の意味で導入するためには、経営者が利益偏重主義から、業績が上がるためのマネジメントと組織の中の人間的側面のマネジメントの両方の同時最適解を探るという姿勢に変わる必要があります。
いまの50代以上の経営者にとって成功体験とも言える利益偏重主義を捨てることができるのでしょうか。少なくとも自分が現役で逃げ切れるまでは、今のやり方を変えるつもりはなさそうです。しかし、それだとメンタルヘルスを崩した従業員が死屍累々とする荒涼とした職場が残されるだけのような気がします。

人が大切にされ、活き活きとした風土が結果として好業績をもたらすという信念と価値観に根ざした長期的な取り組み(=組織開発)が、今後、会社では必要になってくると理解できました。
やはり、若手から同調者を増やして、活き活きとした働きやすい職場づくりを目指していこうと思います。