雨のブログ

人生の雨季に本を読む

「とは言え、ゼロベースで検討しませんか?」

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M&Aのプロジェクトでは、実行するかしないかを決めるための事前調査として、デュー・デリジェンスが行われます。
財務面、法務面、ビジネス面でそれぞれ関係者にヒアリングを行ったり、資料をかき集めてもらって提出を求めたりします。デュー・デリジェンスを行う際には経営企画部からアドバイザーや会計士や弁護士などの専門家に依頼するなどして、数百万円から数千万円近くかかることもありました。

しかし、デュー・デリジェンスの結果、期待したほどビジネス上のシナジー効果が見込めなかったり、財務面で過大な不良在庫を抱えてたりと、このままGoを言いづらい局面が生じることがままありました。

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【書評】未来を共創する経営チームをつくる(鈴木義幸著)

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社外や社内含めていろんな価値観の方々と一緒に仕事をする機会が増えてきました。そういう方々とチームを組んでどうやったらうまく働けるだろうかと、チーミングファシリテーションなどの本を読んでいます。そこで得た知見を意識して現場で試してきました。私個人としてはできるだけ心理的安全な場をつくり、失敗をコントロールし、失敗から学ぶということを心掛けています。試行錯誤のおかげで、少しずつ誰とでも働ける心構えはできてきたように思います。

経営陣が最も「チーム」になれていない

そうして社内を見渡してみると、あまり成果が出せていないように見えるチームが目につきました。一番チームとしてまとまっていないのは、うちの取締役会。

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「ここで違う意見を出すとまずいですか?」

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最大2億円の赤字が見込まれるシステム開発のプロジェクトの稟議が通りそうです。ハッピーケースでも数億円の利益しか見込めないのに。十分に議論された形跡もなく、こんな提案がとおるなんてないと思っていたけど、なぜなんでしょう。
推進している役員はベンダーに丸投げすればシステムは完成すると思っているようです。他の役員にはすでに根回し済みのようです。他の役員はシステム開発についてそれほど知見を有しない人が多く、彼のいいなりです。

会議でよくあるのが、反対しているのが自分だけと思い込み、反発を恐れて意見が言えないというものです。会議の流れが読めないうちに明確に意思表示をすると、足元をすくわれかねません。反対意見を持っていても、援軍の存在が確かでないと、口にするのがためらわれるというのも理解できなくはありません。
会議が終わった後に雑談していると、「え、あなたも反対だったの?それならそう言ってよ~。私も反対だったのに…」という話がよくあります。誰かが勇気をもって口火を切らなければ、そんな現状は打開できません。

こういうときにあからさまに反対を言うと、相手から感情的な反発を招きかねません。相手の意見に、自分の意見をぶつけるのではなく、「こういう選択肢もありますが、どうでしょうか」という体で、

ここで違う意見を出すとまずいですか?
ちょっと最後まで聞いてもらえますか?

と、先に断りを入れておくと反対意見も言いやすくなります。
相手としても、どんな意見が出てくるかわからないけど、無下に嫌だとは言えないと思います。それに最後まで聞くことに合意した以上、意見を遮らずに聞いてもらえるはずです。ここでは『影響力の武器』に書かれていた「コミットメントと一貫性」を使います。
「コミットメントと一貫性」とは、いったん決めたことは最後まで貫き通そうとする人間の性質のことをいいます。
epascal.hatenablog.com

途中で自分への反対意見だと分かっても、最後まで聞くことにコミットメントした以上、最後まで聞かざるを得ません。自分の考えと相いれない意見でも会議に出た以上、他の方からの意見を求める必要が出てきますので、他の方も意見を言いやすくなります。

会議の冒頭で会議のゴールを共有しておくと、なお意見を言いやすくなります。つまり自分が反対意見を表明するのは、会議のゴールに向かうのに必要だからであって、あなたに敵対するためではないというスタンスを理解してもらうのです。
相手の発言を認め、自分の意見も表明し、会議のゴールに向かってよりより意見にブラッシュアップしていく。
そうして会議のメンバーがどんどん意見を言いやすくなる雰囲気をつくっていくことが、チームの心理的安全性を高めることに繋がります。

弊社の場合、もっとも心理的安全性を高めるべきは経営チームなのではないかと思います。反対意見も受け入れて実質的な議論を行い、リスクが大きすぎるプロジェクトの稟議を早々にリジェクトして欲しいです。
Photo by NeONBRAND on Unsplash

「それをどう測定しますか?」

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「企業の活動はどんなものでも数値化できます。」

以前お世話になった戦略コンサルタントの方に言われたことです。そのときは企業価値算定にあたって、逆に数値化できないものは企業価値に含まないという文脈だったように思います。

 

企業価値算定の場面だけでなく、日常の経営においても、企業活動はどんなものでも数値化できると思います。数字で測定できないものには、適切なアクションを講じることができない、または難しいということで、コントロールの外に置かれます。

財務数字と直結するような、もともと数字を取りやすい要素は、当然ながらすぐ補足できる体制を敷くことが可能です。たとえば売掛金の回収期間や毎月の経費などです。

一方で、組織文化のように数値化しにくそうなものもあります。しかし、こうした漠然としたものでも、従業員アンケートなどを行い、結果を集計すれば実情を数値的に把握できるものです。アンケートは一人一人のレベルでは主観に過ぎませんが、ある程度の数が集まれば、客観性がまし、数値として見える化できます。そうなれば十分にコントロールできるようになるのです。

もしアンケートの結果、「個々人の能力開発への取り組みが強い」という項目の点数が他の項目よりも明確に低ければ、会社として魅力的な能力開発プログラムを提供したり、目標面談の際に具体的な能力開発目標についても話し合うことを奨励したりすることで、能力開発に対する意識を高めることは可能でしょう。

そしてそれを毎年定点観測していけば、どのような施策が効果的だったのかの判断もしやすくなるのです。

 

とはいえ、測定が難しい要素も存在します。

日本の企業では3S(整理、整頓、清潔)が強調されることが多いのですが、職場の綺麗さを納得のいく形で数値化するのは必ずしも容易ではありません。

 

どこまで数値化するかは費用対効果の問題です。

そうは言っても経営にとって、どのようなポイントを大事にして経営していくかによって数値化すべきか要素かどうかを判断すべきです。

なかには定性的な情報だけである程度コントロールできるものもあるでしょうが、やはり経営として重要と考える要素については、工夫してでも数値化すべきです。

たとえば、顧客満足度を大事と考えるなら、顧客満足度を測れる仕組を経営管理にビルトインして毎月でも測定すべきです。

ある月にそれが急に下がれば、何かしらの問題が生じている可能性があるとして、すぐに何らかのアクションを起こす、といった経営スタイルが取れなければ、本来、顧客満足を第一に考える経営というものを十分に実現できないはずだからです。

 

顧客第一を掲げながら、売上、経費、営業利益しか見ていないうちの会社は、その本気を問われていることに気づいていません。

 

「若いとか年寄りとか、関係ありますか?」

f:id:epascal:20211224070639j:plain「年をとってくると記憶力も思考力も衰えるから、もう若い人たちに任せるよ」なんて言ってどんどん仕事を振ってくるおじさん社員が、私の会社にはいます。

本当に年をとってくると記憶力も思考力も衰えるのでしょうか。そのおじさん社員が本心からそう思っているとは思いませんが、本当にそうか調べてみました。

 

すると、やはり知能の発達はそんな単純なものではないようです。

一般には、知能の発達は青年期をピークとして、それ以降は伸びることはなく衰退の一途を辿ると思われています。とくに、中高年期になると知的能力は衰えを示すという社会通念は、何の抵抗もなく受け入れられています。しかし、『なぜ人と組織は変われないのか』にも書かれていたように、最近の研究では、成人期になってからも知的能力は発達することが明らかになっています。


年齢と業績の関係を調べた研究では、物理学者や数学者などの業績のピークは35歳ごろであり、それ以降は緩やかに低下するそうです。音楽家や画家は30代後半から40代にかけて最高の業績を上げますが、個人差が大きく、ピカソミケランジェロのように老年期に第2のピークを迎えた人物もいます。作家では作品数のピークは35歳〜45歳ごろですが、その間ベストセラーを出す年齢は45歳ごろが一番多くなっています。

 

知能は流動性知能と結晶性知能に分けられるそうです。流動性知能とは、新たな状況への適応の際に必要となる能力で、頭の回転の速さを意味します。流動性知能は、経験による蓄積と関係なく、生理的成熟と密接に関係し、青年期にピークがあり、成人期以降は衰退していくと考えられています。一方、結晶性知能とは、それまでの学習経験によって獲得された知識、習慣、判断力などです。教育や文化の影響を強く受け、成人後も発達し、老年期になってからも向上し続けると考えられています。

心理学者の研究によれば、単純な暗記のような課題に関しては、30歳ですでに成績が下がり始めます。それに対して、文書や人の話といった言語情報の理解や語彙の理解のような課題に関しては、少なくとも測定がなされた60歳まで成績が伸び続けています。

 

まぁそうですよね。実社会での活躍する年配の方たちもいますものね。

 

実社会でバリバリに働くには、計算の速さや暗記力よりも、人生経験や仕事経験によって生み出される知恵を働かせることが必要です。そうした結晶性知能は、人生経験に積み重ねによってどこまでも豊かに向上し続けていくのです。

 

うちのおじさん社員たちも、「できない」「わからない」といって若手に仕事を振ってばかりいないで、経験を活かしてバリバリ仕事に取り組んでもらいたいものです。