雨のブログ

人生の雨季に本を読む

【書評】企業変革力(ジョン・P・コッター著)

 

f:id:epascal:20211015103238j:plainImage by fahribaabdullah14 from Pixabay 

職場にも変わってほしい

うつで休職していると、つらつら考えます。早く復職できるように自分自身が持つ認知の歪みを直さなければいけないと。それとともに、職場にも変わってほしいなとも思いました。
今の職場は悪い意味で官僚的で、上司からはパワハラやマイクロマネジメントを受け、自由な発想や発言が抑えられる息が詰まるような職場です。そうではなく、心理的安全性が確保され、失敗からも学習する職場であってほしい。職場を変えるにはどうしたらよいか、その方法が書かれていると思われる本書を手に取りました。
本書で企業変革を実現するための8段階のプロセスと、このプロセスに含まれる推進力、つまりリーダーシップについて書かれています。

著者の紹介

本書の著者はジョン・P・コッター教授。ハーバード・ビジネス・スクールの冠松下幸之助講座リーダーシップ教授で、1980年に33歳の若さでテニュア(終身教職権)を獲得し、正教授の職に就くのですが、これはハーバードの歴史の中でも最年少の教授就任とのことです。
本書が書かれた1997年は21世紀を目前に20世紀型の成功体験から脱却し企業変革を推進していくことが求められた時期なのでしょう。後述しますが、コッター教授の20世紀型企業と21世紀型企業の対比が(まだ実現してなくて)面白いです。

企業変革を進める8段階プロセス

コッター教授は、企業変革は次の8つのプロセスを「順番を守って」実践すべきとします。

  1. 危機意識を高める
    現状維持バイアスを打破する材料を集める
  2. 変革を進めるための連帯チームを築く
    →変革をリードするために十分なパワーを備えたチームをつくる
  3. ビジョンと戦略を生みだす
    →変革の試みを導くためにビジョンを生み、その実現のための戦略を立てる
  4. 変革のためのビジョンを周知徹底する
    →連帯チームが自らモデルになって継続的に新しいビジョンと戦略を発信する
  5. 従業員の自発を促す
    →変革ビジョンを妨害するシステムや組織構造を変革する
  6. 短期的な成果を実現する
    →短期的勝利を生む計画を立て、これら勝利に貢献した人たちを報奨する
  7. 成果を生かしてさらに変革を進める
    →変革ビジョンの推進に貢献する人材を採用・昇進・開発する
  8. 新しい方法を企業文化に定着させる
    →新しい方法と企業の成功の関係を明確に示し、リーダーの開発と後継者育成を促す

この8つのプロセスは、今年の中小企業診断士試験にも出題されていますので、経営コンサルタントにとっては常識といえるほど一般的なプロセスのようです。

8つのプロセスの中では、初めに連帯チームを築き、そのあとビジョンを生みだすという順番(2→3)が興味深いです。
素朴に考えると仲間集めの前にビジョンが先のような気がしますが、そうではないようです。それは思うに、個人でのこうありたいという「思い」は個人にとどまる限り、企業変革の「ビジョン」とはなりえない。おそらく複数のメンバーで共有され、検討され、議論され、合意されて初めて目指すべき「ビジョン」たりうるのだと思います。そこで、コッター教授も、まず変革を推進するのに一番良いメンバーを集めちゃいなよ、と言っているのでしょう。

 

企業変革を進めるリーダーシップ

8つの変革プロセスと並んで、コッター教授はリーダーシップを学ぶことが必要だとしています。
ここでのリーダーシップとマネジメントの違いをコッター教授は以下のように比較しています。

皮肉なことに過去における成功こそが、マネジメントだけを企業に定着させ、リーダーシップを学ぶ機会を奪ってしまった。企業の当初の成功によって、その企業は市場における優位性を確立する。その結果、企業は成長する。しばらくすると、大規模に成長した企業をしっかりコントロールし続けることが大きな課題となる。人々の関心は社内に向き始め、経営管理能力の訓練が盛んに実施される。リーダーシップよりもマネジメントが強調されることから、官僚主義と社内のみに目を向ける傾向が強まる。しかし市場の優位性が保たれていることから企業の成功は継続し、問題は表面化せず、不健全な傲慢さが頭をもたげてくる。このような傾向が重なって、変革の試みの実現がますます困難となったのである。(p54)

 

20世紀では、いかに計画を立て、予算を設定し、組織を作り、人材を配置し、コントロールし、問題を解決していくかというマネジメント機能が圧倒的に重視されてきました。しかし、コッター教授は環境変化の激しい現代では、もっとリーダーの育成が重要になってくると言います。リーダーとは、ビジョンと戦略を生みだし、それを広く伝えられる人材のことです。そして、リーダーとなる人は生涯を通じて学習し続ける必要があります。20代までで学習を終え、あとは習得したスキルを使って会社生活を送るといった「20世紀型」人材では、激しい環境変化についていくことができなくなってしまうからです。

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リーダーシップ機能とマネジメント機能



自分の会社を振り返ってみると

本書は1997年に書かれたものですので、20世紀の時点から21世紀の企業像を展望しています。しかし、21世紀に入ってすでに20年経ちますが、本書で示された21世紀の企業像が、私の観察範囲では、現実化しているようには思えません。

  20世紀型企業 21世紀型企業
組織構造
  • 官僚的組織
  • 数多くの階層
  • 経営幹部がマネジメントを進めるという考え方にもとづいて組織が作りだされている
  • 社内に複雑な相互依存関係を数多く生み出す制度や規程によって成立している
  • 数少ないルールと少数の従業員によって構成される非官僚的組織
  • 数少ない階層
    経営幹部がリードし、組織株の従業員が管理するという考え方にもとづいて組織が作りだされている
  • 顧客にすぐれたサービスを提供するために、社内の相互依存関係を最小に保つような制度と規程によって成立している
システム
  • 業績を分析する情報システムがほとんど活用されていない
  • 業績データは経営幹部にしか配布されない
  • マネジメント訓練や支援システムは経営層にしか提供されない
  • 顧客に関するデータを十分に提供することによって、業績を分析する情報システムを活用している
  • 業績データが広範囲に配布される
  • マネジメント訓練や支援システムが数多くの人材に提供される
企業文化
  • 社内にのみ目を向ける
  • 中央集権的
  • 遅い意思決定
  • 政治的
  • リスクを回避する
  • 外部に目を向ける
  • 人材をエンパワーする
  • 迅速な意思決定
  • オープンで、かくしだてがない
  • リスクを負うことを許容する
20世紀型企業と21世紀型企業の比較

 

うちの社内はまだ20世紀に取り残されているかのように、そのまんま上図左側の「20世紀型企業」に書かれた状況にあります。とりわけ「業績を分析する情報システムがほとんど活用されていない」「業績データは経営幹部にしか配布されない」といった点は、最近BI(Business Intelligence)の導入を検討したうえで見送ったくらいです。新世紀の夜明けはまだ遠いようです。

 

まずは仲間あつめから

本書では企業変革のための8段階プロセスを丁寧に説明していて、このプロセスをたどっていけば私にも何か変えられるのではないかという期待と勇気がもらえます。私自身、うつで休職していますので職場も自分もこのままではいけないという危機意識はとても強いです。

私自身が働きやすいと思う職場は、心理的安全性が確保され自由闊達な議論と学びがある、成長を実感できる職場です。組織文化を変えていくことは困難なことかも知れませんが、このままではいけないという危機感は十分だと思いますので、復職後は、まず同調者を増やすための勉強会や本配りから始めてみようと思いました。