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【書評】謙虚なリーダーシップ(エドガー・H・シャイン、ピーター・A・シャイン著)

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Photo by fauxels from Pexels

謙虚なリーダーなんてあるの?

グイグイいけない管理職だった私は、管理職失格と思っていました。しかし、本書のタイトルにある謙虚(というより引っ込み思案)なリーダーシップというスタイルがあるのなら、私にも真似することができるかも知れない、リーダーだからってグイグイ行かないで良いのならそうしたいと思い、本書を手に取りました。

 

著者の紹介

エドガー・H・シャインさんは、MITスローン経営学大学院の元教授で心理学者。組織開発、キャリア開発、組織文化の分野で功績を残した方です。1928年生まれで今年93歳!。共著者のピーター・A・シャインさんは、エドガーさんの息子だそう。

個人的な関係を重視するスタイル

「謙虚なリーダーシップ(the Humble Leadership)」とは、

グループ内およびグループ間のより個人的な関係の上に築かれる、もっと個人的で、信頼しあい、率直に話をする文化と深く関連するモデル

本質的に、他者とのつながりに基づくプロセスと定義されるものであり、一人の英雄が持つビジョンや目的に基づく他のモデルの代わりにはならない。

としています。「謙虚なリーダーシップ」は、リーダー個人に着目したものでも、役職や権限に着目したものでもなく、リーダーとチームメンバーとの間の個人的なつながりに重点を置いたモデルと言えるでしょう。

そしてリーダーとチームメンバーとの間の関係性について以下のレベルを設定し、「謙虚なリーダーシップ」はレベル2の文化を基盤にするものだと主張します。

  • レベルマイナス1:全く人間味のない、支配と強制の関係
  • レベル1:単なる業務上の役割や規則に基づいて監督・管理したり、サービスを提供したりする関係。大半の「ほどほどの距離感を保った」支援関係
  • レベル2:友人同士や有能なチームに見られるような、個人的で、互いに助け合い、信頼しあう関係
  • レベル3:感情的に親密で、互いに相手に尽くす関係

なぜ、「謙虚なリーダーシップ」という概念が必要かについては、まず従業員のエンゲージメント(愛着ですかね)を大事にする昨今の風潮が理由として挙げられます。本書では以下のように述べられています。

現代においては、従業員を「エンゲージ」させ、個人的プロジェクトに取り組む時間を与え、彼らの才能をもっと組織的に機能させることが、きわめて重視されている。しかしながら、人がエンゲージできる対象は、役割ではなく、人である。マネジャーとして、従業員エンゲージメント、参画・関与、エンパワーメントを懸念するなら、まず、レベル2のつながりをつくることに力を注ぐべきなのだ。

また、不確実性の時代においては、組織が直面する問題が、複雑で、全体に及び、相互に関連し、かつ多文化的であることもその理由として挙げています。上記のような組織では「一匹狼を思わせる英雄のようなリーダー」だと、適切な判断を下すための情報に漏れがあるせいで「きっと苦労する」のに対して、レベル2の関係づくりに長けた「謙虚なリーダー」は、革新に不可欠な、より多くの、より良い情報フローが高速で絶えずもたらされるので、「この先輝きを放つ」のだそうです。

 

続いて本書では「謙虚なリーダーシップ」が有効な場面について「シンガポール政府」「医療センター」「アメリカ軍」「スタートアップ」の事例を紹介しています。

また最後の章では、レベル2の文化に関係性を構築するための具体的なアクションまでも教えてくれています。

職場での関係構築のプロセスのことを、仕事の内容と同じくらい、あるいはそれ以上に、考えるべきと主張されます。

これからは「謙虚なリーダーシップ」が求められそう

どうやら本書で言うところの「謙虚なリーダーシップ」とは、モジモジしてて良いリーダーシップではなく、個人的関係を基盤としたリーダーシップを意味するようです。チームの目的達成のために関係づくりを重視するリーダー像と理解しました。
複雑さが増した不確実な時代には上意下達や役職と権限で縛りつけるスタイルのリーダーでは立ち行かなくなるというのは理解できます。あらゆる情報がリーダーの元に集まり、そのリーダーがすべての情報を処理でき、適切に判断しうるということは期待できないからです。
試行錯誤を認めチームメンバーそれぞれの強み弱みを受け入れ、本音を伝え合う関係の上に築いたチームでなければ成果を上げることは、ますます難しくなります。そしてそのような関係(本書でいうレベル2の関係)を築くためには、リーダーは謙虚である必要があるということだと思います。

以前、一緒に仕事をしていたリクルート出身の方がやけにグイグイ立ち入ったことを聞いてくるなと思って引いていましたが、それも私との間にレベル2の関係を築いて仕事を進めやすくするためだったのだと思えば許せます。

レベル2の関係を築くのに、リーダーだけでなくメンバーのほうにも心構えがないとうまくいかないかも知れません。そのためにはチーム内に本音を言い合えるいわゆる「心理的安全性」が確保されていることが必要なのだと思います。この点はリーダーからチームメンバーに伝える努力をした方が良いのでしょう。

心理的安全性のつくり方」については、そのものずばりのタイトルの本も出ていますが、まずは本書でも引用されていたエイミー・C・エドモンドソン教授の『チームが機能するとはどういうことか』に詳しく書かれているそうなので、こちらを読んでみたいと思います。(→読みました。学びの多い本でした。)

 

epascal.hatenablog.com

 

まずはチームメンバーにもっと関心を持とう

また、リーダーはただ謙虚であるだけでは足らないでしょう。大前提としてやはり実現すべき理想や理念(コア)を持つことが必要だと思います。これは『リーダーシップに出会う瞬間』でメンターの森尾さんが言っていたことの受け売りですが。

本書を読んで、リーダーが部下をグイグイ引っ張るスタイルではなく、部下に奉仕することで組織目標を達成する『サーバントリーダーシップ』というスタイルがあることを知りました。もはや「リーダーシップ」の固定観念を変える必要がありそうです。

振り返ってみると、私の場合は、リーダーという別の権威から与えられた役割や権限に甘えて、チームメンバーに対する関心が薄かったようです。その意味でチームメンバーに一方的な忖度や服従を求める「傲慢なリーダーシップ」でした。もっともっとチームメンバーや周りの人々に関心を持つことから始めなければなりません。