雨のブログ

人生の雨季に本を読む

【書評】リーダーシップに出会う瞬間(有冬典子著)

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グイグイいけないリーダー

会社での私のポジションは私を含めて6人のチーム(メンバー全員が私の先輩にあたります)のリーダー(管理職)でした。後悔しているのは、所属するチームのメンバーにどのように振る舞ったらよかったのかということが分からないまま、私自身がうつで休職してしまったことです。自分としては外向的な性格ではないし、ビジョンを示して周りをグイグイ巻き込んでみんなを引っ張っていくタイプではないと思っているので、そういう自分が管理職を務めるのは荷が重いとつねづね思っていました。そういう嫌々リーダーを務める気持ちがチームメンバーに接するときにも消極的な態度として表れてしまったかも知れません。メンバーにとっては頼りない管理職だったと思います。管理職として迷いがあったときにTwitterで本書を勧めている人がいたので、読んでみました。「成人発達理論」というものは知りませんでした。

新米リーダーの成長ストーリー

本書の著者・有冬典子さんは「わたしを生きる。あなたと生きる」を活動理念として組織人のキャリアとリーダーシップ開発を行うコンサルタントとのこと。「自分らしいリーダーシップ」「自己一致したリーダーシップ」を追求する中で成人発達理論に出会い、なんとかこの理論を一人の女声が自分らしいリーダーシップを発揮するまでの内的な葛藤も描いた小説仕立てで表現できないかと思い、本書を書いたそうです。ただ、小説部分だけでなく、『なぜ部下とうまくいかないのか』の著作がある知性発達科学者の加藤洋平さんによるコンパクトで分かりやすい解説が各エピソードの終わりについていて、主人公の成長に合わせて小説を読み進めるうちに本書で唱える「コアリーダー」のあり方を主観面・客観面の両面から理解できる仕掛けになっています。小説部分の主人公が悩みを乗り越えていくストーリーもよくできていて一旦読み始めたら最後まであっという間に読めてしまいました。

小説のあらすじ

都内大手食品メーカーの営業部に勤める青木美智子(主任、入社9年目)が上司の後藤課長から管理職への昇進を打診されるところから物語は始まります。初めは恐縮して辞退しようとする美智子でしたが、隣の部署の小林課長の部下を叱りつける指導のしかたに違和感を覚えたり、メンターとなる森尾課長からリーダーを目指すことで生じる自己の変化や広がる可能性についてアドバイスを受けたりするうちに、周囲に支えられながら自分らしいリーダー像を思い描くようになり、美智子の内面の成長段階が進むとともに、美智子なりのリーダーシップを発揮していけるようになります。

成人発達理論とは

主人公・美智子のリーダーとして成長していく様子は「成人発達理論」の各段階を追っていくかたちで解説が加えられています。

成人発達理論とは、私たち成人が一生涯かけて発達していくプロセスとメカニズムを探究する学問領域です。

ハーバード大学のロバート・キーガン教授やボストンカレッジ経営大学院のビル・トーバート教授のリーダーシップに関する発達理論をベースにしています。

それによると、成人意識の発達段階は以下の変遷をたどるとされています(( )内は各段階におけるリーダーのスタイル)。

  1. 利己的段階(エゴリーダー)
  2. 他者依存段階(八方美人)
  3. 自己主導段階(コアリーダー)
  4. 相互発達段階(より深く広い視野からコアな願いを持つ、超コアリーダー)

1の利己的段階のエゴリーダーは、自らの思いを押し通す推進力は持つものの、他者を自己の欲求を満たすための手段・道具ととらえ、人を見下す思考や行動パターンをとるとされます。

2の他者依存段階の八方美人は、それより他者の気持ちを察する力がついてきますが、他者は自己イメージを形成するために必要なものと捉え、周りに嫌われたくないという思考パターンをとるとされます。

3の自己主導段階のコアリーダーは、独自の価値体系(理念、コア)を構築し、考えを言語化する力や全体最適の視点からの発信力、巻き込み力を持ち、自分の信念は絶対譲れないという軸を持つようになります。

4の相互発達段階の超コアリーダーは、他者の成長に心から貢献したい、価値観の違う人との出会いは興味深くて刺激的と思う思考パターンをとるようになります。
もうこのレベルになると、神様のような人ですね。

自分なりのリーダーシップ 

小説の小林課長のように部下をガミガミ叱りつけられれば、あるいは部門業績を上げることができたのかも知れないけれど、内向的な私はそれすらできませんでした。つくづく管理職失格だなぁと思っていました。

でも、本書を読んで、リーダーといっても色々なスタイルがあってよく、自分らしいリーダー像を追い求めれば良いということに気づきました。先輩もそんなことをおっしゃっていたような気がします。その時は気休めにしか思っていませんでしたが。

それと、リーダーをリーダーにするのは、実現したい理想があるということなんだと理解しました。主人公が「チームの誰もが自己犠牲的になることなく、お互いを大事にしあって、大事な任務を全うしたい」という願いを言語化して明確に認識したことで、自分の中にブレない軸ができて、その願いを握りしめて損するかもしれないとか嫌われるかもしれないとかの得体のし知れない恐怖に突っ込んでいくことで、リーダーとして一段階ステップを上った部分は、まさに理想が人をリーダー(この場合管理職であるかどうかは関係ない)にしているということを示唆しています。

小説の中でメンターの森尾さんは以下のやり取りで、いつも相手の反応が怖い美智子の背中を押します。

「青木さん、保身ではない起点からの情熱があるなら、それは社会のため、その場のための大切な一筋の光よ。それがコアな願いというものなの。遠慮して引っ込めてしまわずそれを場に差し出してごらんなさい。どんなに不完全な形でもいいから。コアからの願いは人の心を動かすわ。遠慮して黙っているよりずっとましよ。」

「でも、言ってみて、周りから反発されたり、逆に無反応だったりしたらどうしたらいいのでしょう……?」

「それはすべてただのフィードバックよ。傷つく必要はない。逆にありがたく参考にさせてもらって、さらに自分の願いを研ぎ澄ませばいいだけ。そうやって、何度も自分のコアな願いを磨き上げるの。」

相手の反応は「ただのフィードバック」という森尾さんのセリフは、引っ込み思案の私にも思いを表現することの勇気を与えてくれます。

解説部分に書かれていましたが、リーダーシップはまずは成長したいという内発的な思いから出てくるようです。

そもそも、「発達(development)」という言葉の語源は、古典フランス語の「desvoloper」という言葉にあります。この言葉は、「内側から花開く」という意味を持っています。(中略)つまり、発達を生み出す真の力は外発的なものではなく、私たちの内側にあるということです。

 

この本の発達段階に当てはめると自分はまだ「八方美人」の「他者依存段階」にとどまっているみたい。その先に自己主導段階、コアリーダーの素晴らしい体験が待っているそうです。
まだ自分のコアと呼べるような理念が定まりませんが、先の発達段階を見据えて徐々に理想とするリーダーのスタイルを身につけていこうと思います。

本書を読んで「成人発達理論」を学びたくなりました。次は本書の解説を担当していた加藤洋平さんの『成人発達理論による能力の成長』か、ベースになっていたロバート・キーガン教授の『なぜ弱さを見せあえる組織は強いのか』を読んでみようと思います。

成人発達理論による能力の成長 ダイナミックスキル理論の実践的活用法 なぜ弱さを見せあえる組織が強いのか――すべての人が自己変革に取り組む「発達指向型組織」をつくる  

とにかく、読むとなんだか動きたくなる、元気が出る本でした。