雨のブログ

人生の雨季に本を読む

【書評】エッセンシャル思考(グレッグ・マキューン著)

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「より少なく、しかしより良く」

5年ほど前に知り合いのコンサルタントから『エッセンシャル思考』という本を貰いました。そのコンサルタントは自分の部下に自分が読んで感銘を受けた本を全員分買ってプレゼントするのだそうです。曰く、本は数千円で古今東西の天才が発見したメソッドや成功パターンを知れるので、そこらへんに研修に行かせるよりはるかにコストパフォーマンスの良い研修方法だ、とのこと。なぜかクライアント側の私にも本をくれて(強化研修が必要と思ったのかも知れません)、本をいただいたその時もじっくり読んで感心し、「あれもこれも」手を出すのは止めて「より少なく、しかしより良く」を実践してみようと思ったのでした。

しかし、忙しさにかまけているうちに実践がおろそかになり、その後うつで休職するに至ってしまいました。休職した際になにげなく本棚から本書を引っ張り出してきて読んでみたところ、これを心掛けていれば休職にならなかったのでは、と改めての気づきがあったので、今度は忘れないようにアウトプットしておこうと思いました。

 

著者の紹介

著者のグレッグ・マキューンさんは、シリコンバレーコンサルティング会社THIS Inc.のCEOと奥付には書かれていますが、著者の公式サイト( https://gregmckeown.com/ )には「McKeown is the CEO of McKeown Inc.」とあり、会社名が変わったのかも知れません。1977年生まれとのことなので、本書の原書が書かれた2014年にはまだ37歳だったことになります。

「エッセンシャル思考」と「非エッセンシャル思考」

本書は「エッセンシャル思考」を「より少なく、しかしより良く」を追求し、しかも絶えず「今、自分は正しいことに力を注いでいるか」を問い続ける生き方であるとしています。
本書ではエッセンシャル思考と非エッセンシャル思考を以下のように対比してエッセンシャル思考とはどういうものかを分かりやすく浮き彫りにしています。

  非エッセンシャル思考 エッセンシャル思考
考え方 みんな・すべて
  • やらなくては
  • どれも大事だ
  • 全部こなす方法は?
より少なく、しかしより良く
  • これをやろう
  • 大事なことは少ない
  • 何を捨てるべきか?
行動 やることをでたらめに増やす
  • 差し迫ったものからやる
  • 反射的に「やります」と言う
  • 期限が迫ると根性で頑張る
やることを計画的に減らす
  • 本当に重要なことを見定める
  • 大事なこと以外は断る
  • あらかじめ障害を取り除いておく
結果 無力感
  • 何もかも中途半端
  • 振りまわされている
  • 何かがおかしい
  • 疲れきっている
充実感
  • 質の高い仕事ができる
  • コントロールしている
  • 正しいことをやっている
  • 毎日を楽しんでいる
選択
  • やらなくては
  • 選ぶ余地がない
選ぶ力を取り戻す
  • これをやろう
  • 自分で選びとる
ノイズ
  • 大多数の物事が重要
  • どの選択肢も平等に扱う
大多数のものは無価値
  • 大多数の物事が不要
  • 決定的に重要なことだけをとる
トレードオフ
  • 両方できるさ
  • どうすれば全部できる?
何かを選ぶことは何かを捨てること
  • 何をとり、何を捨てるか
  • 何に全力を注ぐ?
孤独 忙しくて何も考える余裕がない 考えるための余裕
洞察
  • 声の大きい意見に反応する
  • 話のすべてを聞こうとする
  • 情報の渦に吞み込まれる
情報の本質をつかみとる
  • ノイズの中のシグナルを探す
  • 語られないことに耳を傾ける
睡眠
  • もう1時間睡眠を削れば、もう1時間仕事ができる
  • 眠るのは根性なしだ
  • 眠ると怠け者になる
  • 睡眠のせいで仕事量が減る
  • もう1時間眠れば、数時間分の生産性が手に入る
  • 優秀な人はよく眠る
  • 眠ると創造的になる
  • 睡眠は仕事の効率を高めてくれる
選抜
  • 何にでもイエスと言う
  • 「みんながやっているから」やる
もっとも厳しい基準で決める
  • 上位10%にだけイエスと言う
  • 「まさに自分が求めていたことだから」やる
目標
  • 価値観やビジョン、ミッションステートメント
  • 具体的だが人の心を動かさない四半期目標
  • 価値観はあるがそれを実行するための行動規範がない
最終形を明確にする
  • 具体的かつ魅力的な戦略
  • 意味があり、心に残る本質目標
  • ひとつの決断によって、その後のあらゆる決断を不要にする
拒否
  • 周囲の期待とプレッシャーに負けてイエスと言う
  • なんでも引き受ける
断固として上手に断る
  • きっぱりと上手にノーと言う
  • 本当に重要なことしか引き受けない
キャンセル
  • 「こんなに金をかけたのに、今さらやめられない!」
  • 「やり続ければ、いつか報われるはずだ」
  • 失敗を認めたくない<現状維持バイアス
過去の損失を切り捨てる
  • 「もしまだ1円も払っていないとしたら、今からこの企業に投資するだろうか?」<ゼロベース思考>
  • 「今これをやめたら、何に時間とお金を使えるだろう」<機会損失>
  • すすんで損切りをする<逆プロトタイプ>
編集
  • 良くすることは、何かを付け加えること
  • あらゆる細部に愛着がありすぎる
余剰を削り、本質を取り出す
  • 良くすることは、何かを削ること
  • 不要な細部は冷徹に切り捨てる
線引き
  • 境界線は自分の力を制限するものだ
  • 境界線はきゅうくつだ
  • 毎回ノーと言うのに苦労する
境界を決めると自由になれる
  • 境界線を引くことで本当の力が発揮できる
  • 境界線は自由を生む
  • ノーと言わなくてもいいようにあらかじめルールを設定する
バッファ
  • 最善のケースを想定する
  • 土壇場にならないと頑張らない
最悪の事態を想定する
  • 準備と計画に全力を注ぐ
削減
  • 応急処置を積み重ねる
  • 仕事が増える
仕事を減らし、成果を増やす
  • 本当の障害を取り除く
  • 成果を生まない努力をやめる
  • 成果が増える
前進
  • 多くを望み、得るものは少ない
  • 派手な勝利を追い求める
小さな一歩を積み重ねる
  • 小さく始めて大きな成果を得る
  • 地味でも着実に勝ちに行く
習慣
  • 火事場の馬鹿力に期待する
  • 重要なことをやるのは例外的
本質的な行動を無意識化する
  • 正しい習慣を通じて自然に達成する
  • 重要なことをやるのが普通の状態
集中
  • 過去と未来に引き裂かれている
  • 昨日や明日の問題について考える
  • 未来への不安や過去の失敗を思い悩む
「今、何が重要か」を考える
  • 現在に集中している
  • 目の前の問題を考える
  • 今を楽しむ

 

エッセンシャル思考を常に実践すべき

以前も読んだはずなのに、1ページ、1ページの記述が染み渡ります。

タフな選択を自分で引き受けなければ、誰か他人(会社や顧客)にすべてを持っていかれる。

こんなに重要なことが書かれていたのに自分のものにできていなかったという後悔の念が押し寄せてきました。コンサルの人、ごめんなさい。みんなにいい顔をしたくて、その場の空気に流されてきました。本書の内容はいちいち尤もなことだと思いました。

成果を上げている人にとってはエッセンシャル思考が当たり前のことなのかも知れませんが、私には多くの項目で非エッセンシャル思考が当てはまっています。例えば火事場の馬鹿力に期待して仕事を後回しにするとか、良くすることは何かを付け加えることと考えて、どんどん余計なグラフが盛り込まれたコテコテの資料を作ってしまい、却って「分かりにくい」と言われたりとか。何でもできるようになりたいと考え、やらなくてもいい仕事に手を出してしまい、自分がいっぱいいっぱいになったところで既に誰にも振れない状態になってる、なんてことは1度や2度ではありません。

私は確かに「今の重要なこと」に集中すべきなのでしょう。マキューンさんが言うようにエッセンシャル思考が身につけば今を楽しみながら、限られた時間も能力も集中投下できて、大きな成果を上げることもできるのだろうと思います。またマキューンさんは、ある時だけエッセンシャル思考になるのでは不十分で、常にエッセンシャル思考でいなければならないとしています。

実践に向けた2つの壁-「断る技術」と「人に頼む技術」

そんな厳しいエッセンシャル思考を実践するには、私にとって大きな壁が2つあります。人からの依頼を断るということと、人に(重要でないことを)頼むということです。

人からの依頼を断ることについては本書は対策を提案してくれています。「判断を関係性から切り離す」「直接的でない表現を使う」「トレードオフに目を向ける」「好印象よりも、敬意を手に入れる」などです。本書では上位10%のみにイエスと言え、とありますので、実践するとなると今より断ることが多くなり、断るスキルを身につける必要がありそうです。もちろん、何が重要かということが明確になっていないと断る力も鈍ってしまうでしょう。私の弱いところの根本は「今何が重要か」を明確に言語化できていないというところなのだと感じました。

もう一つの壁は「人に(重要でないことを)頼む」ですが、これについては本書では特に触れられていませんでした。重要でないことを頼めるということは、その相手を重要な仕事をしないでよい人と捉えていることに繋がるのではないかと考えてしまいます。自分と比較して相手が重要でないと位置づけるのに抵抗があり、これまで私は人にものを頼むことが苦手でした。この点についてはいまだ克服できていませんが、『人に頼む技術』という本が突破口になりそうでしたので、いずれレビューをアップします。

 

いずれにせよ、うつから抜けるのにも本書の「エッセンシャル思考」を身に着けることが大事だと感じました。今からでも遅くないはずなので、まずはやるべきことの絞り込みと「今、何が重要か」を考える癖をつけていこうと思います。