雨のブログ

人生の雨季に本を読む

【書評】チームが機能するとはどういうことか(エイミー・C・エドモンドソン著)

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即興的なチームでも成果を出す

『謙虚なリーダーシップ』を読んでメンバーとの良好な関係性を基盤としてチーム作りを行うことの大事さを学びました。その際にチーム内の「心理的安全性」についてもっと知りたいと思い、「心理的安全性」の研究で有名なエイミー・C・エドモンドソン教授の著書『チームが機能するとはどういうことか』を読みました。

本書を読んで、固定的なチームでも即興的なチームでも成果を出すために心理的安全性が大事であること、そのためのリーダーシップについて分かりやすく学ぶことができました。

著者は心理的安全性の研究者

著者のエイミー・C・エドモンドソン教授は、「心理的安全性」の研究で有名な方で、ハーバード・ビジネススクールの教授です。
TEDで「他人同士の集まりをチームに変える方法」というテーマで講演している動画がありました。このなかでエドモンドソン教授は、本書の第6章でも取り上げているチリのサン・ホセ鉱山で2010年に起きた崩落事故での救出劇を題材に「チーミング」(後述します)のパワーを解説しています。

www.ted.com

チーミングできる人を増やすのが本書の目的

現代においては環境の変化が激しく、先行きも不透明で私たちを取り巻く状況は不確実さが増しています。そのなかで仕事を進めていくとき、以前のように固定的なメンバーで定型的な業務をこなせば済むということではなく、活動時間帯も場所も異なるメンバーと、専門分野や得意分野をまたいで協力しながら成果を出していくことが求められる場合が増えてきます。ある目的のもとに集まるメンバーは、保有する権限も所属する組織も文化も異なりますが、それでもチームとして対応していかなければなりません。
そこで、権限や役職にかかわらず、またメンバーが固定的か即興的かにかかわらず、チームで成果を上げる方法(これを本書では動詞化して「チーミング」と言っています)を知っている人が今後ますます重要になってきます。本書はチーミングできる人を増やすことを目的としています。

 

「実行する組織」vs.「学習する組織」

チーミングは、決まったことを効率よく実行していく組織よりも、試行錯誤を繰り返し、失敗から適切に学習して目的を達成する組織づくりに適しています。前者を「実行する組織」、後者を「学習する組織」として、誰も正解が分からない不確実な状況下では、「学習する組織」を志向すべきとしています。本書では「実行する組織」と「学習する組織」を以下のように対比して説明しています。

「実行する組織」vs.「学習する組織」
  実行するための組織 学習するための組織
雇用 体制順応者、規則を守る人 問題解決者、試みを行う人
訓練 学習してから行動する 行動することから学習する
業績評価 「あなたは」適切に行ったか 「私たちは」学習したか
作業体制 専門知識を分類する 専門知識を統合する
従業員に与えられる自由裁量権 選択肢の中から選ぶ 試行錯誤を通して試みる
エンパワーメントの手法 特別な状況が生じてやむを得ない場合は、従業員は台本から離れることができる 台本はない。即興で行動せよ!
プロセスの目標 異なる意見を追い払う 異なる意見を使って分析し進歩する
目標 今日にも利益を勝ち取ること 長期的な価値を生み出すこと
リーダー 答えを持っている 方向性を定める
作業プロセス 決まった作業プロセスが導入される 出発点として意図的に仮の作業プロセスが設けられる
変化 変わることは大変な労力を伴う仕事だと考えられる 絶えず少しずつ変わることが日常的になる
フィードバック 一方通行のフィードバックがなされる 双方向のフィードバックがなされる
メンバーの判断 個別の判断は阻止される 個別の判断は不可欠である
恐れ 上司を恐れるのはふつうのことである 不安があると試みや分析や問題解決が妨げられるので取り除かれるべきである

 

チーミングの行動

本書では、「学習する組織」づくりを行うチーミングの行動として以下の4つに整理しています。

  1. 学習するための骨組みをつくる
  2. 失敗から学ぶ
  3. 職業的、文化的な境界を超える
  4. 心理的安全性を高める

 

学習するための骨組みをつくるというのは、上の表のように「実行する組織」から「学習する組織」へ、メンバーの意識を転換することをいいます。

失敗から学ぶというのは、正解のない不確実な環境下では、何らか失敗することは避けられないことであるから、失敗を許容し、失敗から学習する姿勢をチームとして持つことが大事。失敗に気づくのを促進するためには、リーダーは問題を報告した人を歓迎すること、失敗に気づいたらインセンティブを与えることが必要とのことです。

職業的、文化的な境界を超えるというのは、無意識の行動様式や言い回しなどで生じる壁を乗り越える工夫が必要ということです。

いずれの行動も(リーダーと個々のメンバー間だけでなく)チームにおいて「何か困ったことになるのではと不安に思うことなく自由に、関連する考えや感情を表現できる雰囲気」が確保されていることが前提となっていると言えます。この雰囲気のことを「心理的安全」と呼んでいます。

心理的安全性を高める方法

心理的安全性を高めるには、リーダーの役割が大事です。そのリーダーとしてのふるまいかたとして本書では以下の観点を挙げています。

  • 直接話のできる、親しみやすい人になる
  • 現在持っている知識の限界を認める
  • 自分もよく間違うことを積極的に示す
  • 参加を促す
  • 失敗は学習する機会であることを強調する
  • 具体的な言葉を使う
  • 制約条件を設ける
  • 制約条件を超えたことについてメンバーに責任を負わせる

確かに、上記のようなリーダーのもとであればチームの心理的安全性は高まりそうです。逆にリーダーの立場からしたら、メンバーに弱みを見せることにつながるので、なかなか難しいことのように思います。しかし、チームが成果を上げるために必要なこととして自ら恐れを呑み込んで、心理的安全性の確保のためにふるまうことがリーダーには求められます。以前読んだ『謙虚なリーダーシップ』に出てくる「謙虚なリーダー」がチーミングの場面でも求められているのでしょう。

想定される反論

心理的安全性」を高めるというと、パワハラ気質のあるリーダー連中が、そんなヌルいことを言っていてはパフォーマンスが上がらないと言ってきそうです。

しかし、これに対してエドモンドソン教授は、職場における心理的安全と責任は連続体の両端にあるものではなく、職場環境の二つの独立した特質だと反論します。心理的安全か責任かではなく、どちらも追い求めることができるという考え方です。

本書では職場環境を、心理的安全と責任の高低を軸に下図のように4つに整理しています。

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心理的安全と責任(4つの組織的元型)

図の左上、心理的安全性が高く、責任が低いという特徴を持つ職場では、確かに人々は互いに楽しく仕事をしているかも知れないけれど、学習やイノベーションを発展させることは難しいでしょう。

逆に責任が高く、心理的安全の低い職場(右下)は、パフォーマンスについて強いプレッシャーを与えるのが良いと思っているマネジャーが作りだしています。しかし、不確実性や協働する必要性がある現代的な環境においては、そんな職場で生み出されるものは「すぐれた結果」ではなく「不安」です。


やはり不確実な事業環境で「すぐれた結果」を生みだすためには、責任が高く、心理的安全性も高い、「学習する組織」を目指すべきなのです。

 

心理的安全性の確保に向けて

チームで活動する際に、まずは心理的安全性を確保したうえで、失敗を許容し失敗から適切に学習し続ける組織づくりをしていくことが大事だということが分かりました。

 

私自身が働きやすいと思う職場は、やはり心理的安全性が確保され自由闊達な議論と学びがある、成長を実感できる職場です。自分の職場を考えるとまだまだな気がします。まずは心理的安全性を高める方策を一つずつ試してみて同調者を増やし、パワハラマンの意識を変えさせることから始めたいです。