雨のブログ

人生の雨季に本を読む

【書評】THE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術(ジョーナ・バーガー著)

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Photo by Clem Onojeghuo on Unsplash 

どうせなら伝え方も学ぼう

人にお願いすることが超絶苦手な私も、『人に頼む技術』を読んで、意外と人は人を助けたがっている、助けることで自分の善性を感じたがっているということを知り、少しずつ気楽に頼み事ができるようになってきました。

 

epascal.hatenablog.com

 

それでも、いつでも誰でも私の頼みごとを聞いてくれるわけではないでしょうから(当たり前)、やはり緊張します。
頼みごとのハードルをもっと下げるため、「一瞬で人の心が変わる伝え方の技術」というサブタイトルが付いた本書を手に取りました。
嘘かホントか帯にはダニエル・ピンクさんやジム・コリンズさんに加えて、あの『影響力の武器』のロバート・チャルディーニさんも絶賛しているとのこと。これは期待できそうです。

著者のジョーナ・バーガー(Jonah Berger)さんはペンシルベニア大学ウォートン校のマーケティング教授で、行動変化、社会的影響、口コミ等を研究しているそうです。

 

カタリストってなに?

人は誰でも、何かを変えたいと思っている。
しかし、何かを変えるのはとても難しい。

人や組織はたいていいつもと同じことを繰り返そうとします。とりあえず前年度の予算配分を踏襲しますし、新しいプロジェクトをなかなか始められず、古いプロジェクトはなかなかやめられない、なんてことはどこの会社でもあるのではないでしょうか。それは人や組織にはたらく「慣性の法則」と本書では言っています。

その「慣性の法則」を打破するとき、たいていの人は「押す」。上司を説得するときに、売上シミュレーションをつくり、他社事例を集め、証拠を積み重ねて臨みます。しかし、人間は押されたら押し返すもの。それでは人の心は動きません。

本書では、人に変化を促すのには、自分が触媒になって、相手の心理的な障害物を取り除き、変化へのハードルを下げることが必要と説きます。著者のバーガーさんが行動心理学などの関連する文献を読んだり、様々な人の話を聞いたりすることで、人の心を変えるまったく新しいメソッドが分かったとのこと。本書のタイトルの「THE CATALYST(触媒)」はそのメソッドを使って人に変化を促す存在を意味するようです。

それは一言でいうと、、、

 

「変化を妨げている隠された障害を特定し、それを取り除くこと」

 

えー、それだけ?
具体的には次の5つの障害(5番目は取り除くというより補強ですけど)を取り除くことで、人の考えを変えさせることができるのだそう。

  1. 心理的リアクタンス(Reactance)
    押すな押すなは、押したくなる。
  2. 保有効果(Endowment)
    すでに手元にあるものは手放したくない。
  3. 心理的距離(Distance)
    小さなお願いから始める。
  4. 不確実性(Uncertainty)
    お試し価格で不確実性を減らす。
  5. 補強証拠(Corroborating Evidence)
    口コミでみんな言ってる。

を減らすことで相手の心を変えられると主張します。本書ではそれぞれの障害について事例を挙げて紹介しています。上記5つの障害の頭文字を取ると「REDUCE(減らす)」となります。

前提として信頼関係が大事

著者が言いたいことは本書のプロローグにほとんど書かれていて、本文は上記5つの障害をどう取り除くかということを丁寧すぎるほど事例を挙げて紹介していて分かりやすいです。

ただ、本書の心理的リアクタンスの章に書かれているように、

人を変えるには、まずこちらの言い分に耳を傾けてもらわなければならない。そして話を聞いてもらうには、信頼してもらう必要がある。この信頼関係がなければ、何をどういったところで相手は絶対に説得されない。

そりゃそうでしょう。
その信頼関係を築くのが皆さん大変なのではないでしょうか。もちろん本書では、信頼関係を築くための方策も書かれています。曰く、

相手に共感と理解を示し、そして質問によって貴重な情報を集める。いわゆる「戦略的共感」によって、根本的な問題を探っていく。(中略)
相手の立場で考え、会話の主役を相手にすることで、信頼関係を築くと同時に、相手に影響力を与える下地も整える。

なるほど、って、信頼関係を築いてから変化を求める要求を出すということであれば、やはり先ほどの5つの障害の前に、「信頼関係の構築」という大きなハードルがあるように思います。

本書は、ある程度の信頼関係ができた後の変化を促すテクニックに寄った内容と言え、総じてやや牽強付会な気がします。意地悪な言い方をすれば、リデュース言いたいだけちゃうんか?と。

チェックリストのように使おう

ただそれでも、相手に変化を促すコミュニケーションの型を理論的背景をもとに「REDUCE」の5つの要素にまとめたのは思考経済的には有益な気がします。相手の考えを変えたいときや新製品のプロモーションなどに「REDUCE」をフレームワークないしチェックリストとして使ってプランを立てることはそれなりに有効でしょう。

その場合も、前提として相手との関係性をどう構築するかの方がはるかに大事で難しい、ということを忘れないようにしなければならないと思いました。