【書評】読んでいない本について堂々と語る方法(ピエール・バイヤール著)
Image by StockSnap from Pixabay
今週のお題「読書の秋」ということで、趣向をかえていつものビジネス書ではなく、それ以外のジャンルの本を取り上げたいと思います。
今回取り上げるのは『読んでいない本について堂々と語る方法』です。
あまり読書家ではない私にとっては、タイトルからして興味をそそる本ですが、2007年に原著が刊行され、2008年に邦訳が筑摩書房から出版されています。世界的ベストセラーだったそうです。知りませんでした。いまはちくま学芸文庫で手に入ります。
著者のピエール・バイヤールさんは、1954年生まれの精神分析家。パリ第八大学の教授とのこと。今年67歳ですね。
「本は読んでいなくてもコメントできる。いや、むしろ読んでいないほうがいいくらいだ」というのが本書の主張の骨子のようです。
確かに、書店や図書館に行くと一生かけても読み切れないほどの本が置いてあって、このうちしっかり読んだことがある本なんてほんの一握りです。したがって読んでいない本についてコメントをしなければならない場面に遭遇する確率のほうが高いはずです。そう考えると、「読んでいない本について語る方法」を真正面から論じるものが今までなかったことが不思議なくらいです。
ただ、一言で「読んでいない」といっても、それにはいくつかの段階があります。本書では4つに分けています。
- 「ぜんぜん読んだことない」
- 「ざっと読んだ(流し読みした)ことがある」
- 「人から聞いたことがある」
- 「読んだことはあるが忘れてしまった」
「読んでいない」状態についてこんなに細かく場合分けをする必要があるのか疑問ですが、本書は大まじめ。そもそも「本を読んだ(完読した)」という状態は、ラーメンを完食したときのように客観的に明らかではなく、「完読した」から「読んでいない」の間もグラデーションのように連続した状態がありえるわけです。完読した本にコメントできるのであれば、それと連続性のある「読んでいない」状態の本についてもコメントできるはずだということのようです。あまり本を読んでいないことを私はコンプレックスに感じていましたが、なんだか少し勇気をもらえた気がします。
これら「読んでいない本」についてコメントを求められる場合にもいくつかのパターンがありますが、本書では4つの場面を挙げています。
- 「大勢の人の前で」
- 「教師の面前で」
- 「作家を前にして」
- 「愛する人の前で」
いずれの場合にも「読んでいない本」についてコメントをしなければならない状況に自分が置かれることを想像するだに恐ろしい。ふつうに考えれば大ピンチです。
しかし、どんなピンチでも本書を読めば大丈夫。コメントするときの心構えについて親切に4つに分けて書いています。
曰く、
- 「気後れしない」
- 「自分の考えを押し付ける」
- 「本をでっちあげる」
- 「自分自身について語る」
最後の「自分自身について語る」に至っては、もはや本から離れてしまっています。おそらく読んでいない本についてコメントするくらいなら、本に絡めて自分のことを堂々と語ってしまえばよいという、ある種の開き直りにもみえます。
しかし実は、訳者の大浦康介教授が訳者あとがきで書かれているように、それは開き直りではなくて、著者が目指している読者と本の創造的な関係構築なのだそうです。
読書というものはいかに読者側の事情に左右される主観的なものであるかということだが、バイヤールはこれを否定的にとらえるのではなく、逆にそれこそが読書の真実であるとして、読書行為における読者の能動的役割を積極的に肯定する。
(文庫版p283-284)
と、こんな具合に目次と訳者あとがきを読むだけで、ワクワクするようなとても刺激的な言説が期待できる本書ですので、いずれ私も本文を読もうと思っています!