雨のブログ

人生の雨季に本を読む

【書評】影響力の武器(ロバート・B・チャルディーニ著)

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Photo by Alexandru Zdrobău on Unsplash

 

人を動かす影響力の武器

2019年に47歳の若さで急逝された瀧本哲史さんが著書『読書は格闘技』のなかで『人を動かす』との対比で本書を勧めていました。

読書は格闘技 (集英社文庫) 人を動かす 文庫版

 

同じく人を動かそうとしているのだけれど宗教的で人間味あふれるのが『人を動かす』、科学的なのが本書と位置付けていました。詐欺師に騙されないために本書を読んでおくべきとのこと。人から影響を受けることが多い私です。逆に、どのように人に影響を与えられるのか知りたいと思って読みました。

 

著者の紹介

著者のロバート・B・チャルディーニさんは1945年生まれ。アリゾナ州立大学の心理学・マーケティング学部の名誉教授で、著名な社会心理学者です。1984年に著した『影響力の武器』(原題:”Influence: The Psychology of Persuasion”)は300万部以上売れ、30カ国語に翻訳されているそうです。

人にYESと言わせる

チャルディーニ教授は元来、騙されやすい人だったとのことで、そのためどんな要因によって人は要求を受け入れるのか、何か頼み事をするのに、ちょっとしたやり方の違いで成功したり失敗したりするのはなぜだろうか、という疑問を持ったそうです。そこで実際に、中古車販売店、募金団体、テレマーケティング会社などに3年近く「潜入」します。実際の説得の場面を観察し、トレーニングを受けたなかで、彼は、その道のプロたちが相手にYESと言わせるために使う戦術の大部分は6つの基本的なカテゴリーに分類できるということが分かったそうです。すなわちそれが本書の6 つの柱である「返報性」「コミットメントと一貫性」「社会的証明」「好意」「権威」「希少性」です。 

  1. 返報性
    人に何かしてもらったら何か返さないと不快になる心理
  2. コミットメントと一貫性
    人間は最初に決めたことを変えたくない
  3. 社会的証明
    特定の状況で、ある行動を遂行する人が多いほど、人はそれが正しい行動だと判断すること
  4. 好意
    自分が好意のある人の言う事は聞きやすい
  5. 権威
    人は権威者の命令に従いやすい
  6. 希少性
    希少なものは手に入れたくなる

この6つの影響力の武器は、誰でも身に覚えのあることだと思います。これらの武器がなぜ人の判断に影響し、YESと言わせてしまうのかのメカニズムを、心理学の実験結果に基づき分かりやすく説明し、併せてそしてそれを防御するにはどうしたらよいかを解説しています。

信号刺激による反応

ある刺激(これを「信号刺激」といいます)を受けて自動的に反応してしまう性質をチャルディーニさんは再生ボタンを押すと音声テープの音声が流れる様子に喩えて「カチッ・サー」と擬音語で表現しているのが面白いです。この性質は、下等動物だけではなく、人間にも備わっていて、偽の信号刺激に騙されると間違った状況で反応してしまう(「カチッ・サー」の状態)場合があるそうです。
人間でも信号刺激があると自動的に反応してしまう様子は、『ファスト・アンド・スロー』では「システム1」と表現されていました。この「カチッ・サー」「システム1」は停止させておくことができません。なぜなら進化の上で必要だったからです。

これまでの各章では、私たちが承諾の決定を行う際によく利用する情報をいくつか見てきました。それらがよく使われるのは、信頼性が最も高く、それを使えば、たいていは正しい選択ができるからです。だからこそ、承諾するかどうかを決めるとき、私たちは、返報性、一貫性、社会的証明、好意、権威、希少性という要因をあれほど頻繁に、そして自動的に採用するのです。それぞれの要因は、どのようなときにノーではなくイエスと言った方が得するかについて、非常に信頼性の高い手掛かりを提供してくれます。(p433-434)

 

以前レビューした『THE CATALYST』で挙げていた、人に変化を促すときに取り除くべき「5つの障害」は、本書の6つの武器でも説明できそうです。本書の原書初版が1984年刊とのことですので、本書のほうが先行しているのでしょう。さらにYESを引き出しやすくする武器として、堂々と「好意」を挙げている点で、本書のほうが露骨です。

 

THE CATALYST 影響力の武器
THE CATALYST 一瞬で人の心が変わる伝え方の技術 影響力の武器[第三版] なぜ、人は動かされるのか
1. 心理的リアクタンス 希少性
2. 保有効果 コミットメントと一貫性
3. 心理的距離 返報性
4. 不確実性 返報性
5. 補強証拠 社会的証明
権威

避けがたい「影響力」

上記の6つの武器を使えば、多くの場合、人間の行動心理に深く根差している部分を刺激して自然と相手からYESを引き出すことができます。

本書はそれら抗えない人間の反応について6つに整理し、その防御法も書いていますが、前述のように常に防御することは難しいです。それくらいパワフル。

なるほど、瀧本哲史さんが詐欺師に騙されないように本書を読んでおくようにと言った理由が分かります。本書の6つの武器は分かっていてもいざ直面すると簡単には抗えない人間の性質を利用したものだからです。悪用したくなる人もいるでしょうね。

私としては、苦手な人に頼み事をするときにこっそり「武器」を使おうと思います。
その前提として、本書を読んだことをあまり大っぴらに言わないようにします。その方がより効果的ですよね。