【書評】リフレクション 自分とチームの成長を加速させる内省の技術(熊平美香著)
- 「内なる言葉」を探りたい
- 認知の枠組みを整理するフレームワーク「認知の4点セット」
- 基本的なリフレクションの方法
- リフレクションの活用シーン
- リフレクションは「対話」のツール
- 著者のあきらめない姿勢に感銘を受ける
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「内なる言葉」を探りたい
『「言葉にできる」は武器になる』で人に伝わるメッセージを組み立てるには「外に向けた言葉」のスキル(レトリックなど)に先立って自らの「内なる言葉」を探ることが大事だと学びました。
また『リーダーシップに出会う瞬間』で、リーダーになるにはコアとなる願いを握りしめながらヘドロの様な自分の恐れに突っ込んでいく覚悟が必要だと示唆されました。
epascal.hatenablog.com
私の中にある「(私は、チームは、)こうありたい」という願いは、まだ明確な形になっていません。このコアな願いを言葉にしていく方法をもう少し詳しく勉強したくて、「リフレクション」、つまり内省を正面から取り上げる本書にたどり着きました。本書のいう「リフレクション」とは、
自己の内面を客観的、批判的に振り返る行為です。(中略)
経験を客観視することで新たな学びを得て、未来の意思決定と行動に活かしていく。これがリフレクションです。(p3-4)
ということで、これまでの経験を客観視して新たな学びを得ることがポイントになっているようです。
認知の枠組みを整理するフレームワーク「認知の4点セット」
リフレクションをする前に、まずは事実や経験に対する自分の判断や意見を認知することが必要になります。認知していることを認知することを「メタ認知」というそうです。たとえば、会社で上司に冷たくされたときに悲しいと感じたとします。その時に「あ、冷たくされて自分はいま悲しいと感じている」と認知することがメタ認知にあたります。
メタ認知のために役立つフレームワークを本書で紹介しています。それは、自分の判断や意見を「意見」「経験」「感情」「価値観」の4つに切り分ける方法です。
- 意見:あなたの意見は何ですか?
- 経験:その意見の背景には、どのような経験や、経験を通して知っていることはありますか?
- 感情:その経験には、どのような感情が紐づいていますか?
- 価値観:意見、経験、感情を俯瞰して、あなたが大切にしていることは何ですか?
上記の4つのフレームワークを本書では「認知の4点セット」と呼んでいます。認知は過去の経験によって形成された「ものの見方」を通して行われますので、この「ものの見方」を見える化するのに「認知の4点セット」が役立ちます。
たとえば、帰りぎわに突然、上司から残業を指示されたときの「ものの見方」について、「認知の4点セット」を使って見える化してみましょう。
意見 | 突然指示された残業を断りたい。 |
---|---|
経験 | 以前、残業を指示するときは前もって伝えると言っていたのに、また今日も帰りぎわになって突然、残業を指示された。以前の約束はどうなっているのか。 |
感情 | (約束を破られて)悔しい。(残業する意義が説明されない)憤り。 |
価値観 | 約束を守ることが大事。意義ある仕事がしたい。 |
こうしてみると部下は、前もって伝えるという約束が破られたことや、その残業の意義についての説明が無いことに対して怒りを感じていて、突き詰めると「約束を守ること」や「意義ある仕事をすること」を大事に考える価値観を持っていることが見える化できました。どうやら残業そのものがイヤというわけではなかったようで、対応の仕方も変わってきます。
本書にも書いてありましたが、「認知の4点セット」の中でもっとも難しいのが、「価値観」です。ただ、意見の背景には、必ず判断に用いた基準なり尺度なりがあるはず。繰り返し慣れていけばそれら抽象的な基準や尺度が言語化できるようになるそうです。
基本的なリフレクションの方法
この「認知の4点セット」を使って、本書では次の5つのリフレクションのメソッドを紹介しています。
- 自分を知る
- ビジョンを形成する
- 経験から学ぶ
- 多様な世界から学ぶ
- アンラーンする(学んだことを手放す)
「自分を知る」では、自分が大切にする価値観から「動機の源」を探ります。「動機の源」とは、やりがいや喜びを感じる理由のことです。特に情熱を感じる「動機の源」をリスト化しておくとよいでしょう。そうすれば、モチベーションが上がらないときに「動機の源リスト」を見返して、自分の動機の源を満たす行動をとっていけば、また前向きに仕事に邁進できるようになるからです。
「ビジョンを形成する」では、先ほど探った「動機の源」から、未来に向けた願い、実現したいことを深掘りします。心の中にあるビジョンの種を、明確にし、本物のビジョンに変換していきます。
「経験から学ぶ」では、経験から未来に活かす学びを探ります。これまでのやり方が通用しないときや、何かに行き詰まりを感じたときに「経験から学ぶ」リフレクションを行うことで、そもそもの問題を生み出している自分の思考様式に気づくことができることがあります。
「多様な世界から学ぶ」では、対話を「認知の4点セット」を使って行います。本書で言う「対話」とは、自己をリフレクションし、評価判断を保留にして他社と共感する聞き方と話し方としています。
「アンラーンする」では、過去の学び(成功体験)を手放します。これまでうまくいったやり方に頼っていても、なんだかうまくいかないと感じるときや、環境に大きな変化があり、明らかにこれまでのアプローチが通用しないときには、アンラーンのためのリフレクションが役立ちます。
リフレクションの活用シーン
リフレクションの基本メソッドを使って、本書では「リーダーシップ」「部下の育成」「チームビルディング」の場面での活用方法を具体的に示しています。
「リーダーシップ」では、上記の5つの基本メソッドを応用して、リーダーとしてぶれない軸を作る方法や、メンバーとの対話にリフレクションを活かす方法を紹介しています。
また、「チームビルディング」では、基本メソッドを応用して、チームのパーパス(存在意義)、ビジョン(ありたい姿)を明確にし、メンバーとの対話により心理的安全性を作り出し、ミッションを実現する方法を紹介しています。
リフレクションは「対話」のツール
本書を読んで「リフレクション」は、「認知の4点セット」を用いた対話のツールであることが分かりました。内省も、いわば私自身との対話ですので、同じ方法論が他者との対話であるチームビルディングにも応用できることは理解できました。
何か上司から嫌なことを言われたときに、いったん判断を保留し、自分の怒りの感情がどんな価値観に基づくものかを探り、その解決策を考えるということは、うつから抜けるうえでも大事な姿勢だと思いました。
リフレクションを繰り返し練習し、自己の「動機の源」を明確化しておくことで、モチベーションダウンをあらかじめ回避することにも役立ちそうです。
本書は「学習する組織」の実践のための書とのこと。「学習する組織」というワードは『謙虚なリーダーシップ』にも出てきました。
「学習する組織」とは、一言でいうと「夢をかなえるために全員がリーダーシップを発揮することが歓迎される組織」です。(p358)
ピーター・センゲ著『学習する組織』は、人と組織を学ぶ上では、避けては通れない本なのでしょう。厚い本なので、時間があるうちに読んでみたいと思います。
著者のあきらめない姿勢に感銘を受ける
本書の著者・熊平美香さんはハーバード大学経営大学院でMBAを取得後、藤田田さんに弟子入りしたそうです。新規事業立ち上げなどを経験したのち独立し、GEの「学習する組織」のリーダー養成プログラム開発者と協働し、学習する組織論に基づくリーダーシップ、チームビルディング、組織開発を軸にコンサルティング活動を行っているというすごい経歴の方です。
でも、私が本書で一番感銘を受けたのが本書の「おわりに」に書かれていた、熊平さんが「学習する組織」づくりのために取り組んだ活動の歴史でした。それがある意味挫折の連続なのです。しかし、熊平さんは「大人が変われば、教育が変わる」という強い信念のもとあきらめず、アグレッシブに活動されていて、現在はラーニングフォーオールという教育NPOで子供の貧困問題の本質的解決を目指して活動をしていらっしゃいます。その活動の経緯を知ると、本書に書かれているのリフレクションを何度も繰り返し、ご自分の信念を強固に磨き上げていったに違いありません。
熊平さんは現在は、昭和女子大学キャリアカレッジ学院長も務めていらっしゃって公開講座も持たれているようです。機会があればぜひ直接お話を伺いたいと思いました。