【書評】2020年6月30日にまたここで会おう(瀧本哲史著)
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1年遅れの出席
以前から読みたいと思って買っていた『2020年6月30日にまたここで会おう』。2020年6月までには読むつもりでしたが、なかなか気が乗らず、積読にしていました。今思えば、その頃からうつで長い文章を読むことがしんどい状態だったのだと思います。
休職させてもらったことで、時間ができ、体調が戻ってきたこともあり、1年遅れてしまいましたが、本書を手にとりペラペラめくっていました。すると瀧本さんのお話の熱量にどんどん引き込まれていき、気づいたらあっという間に読み終えてしまいました。
著者の紹介
著者の瀧本哲史さんは、エンジェル投資家、教育家という肩書ですが、活動してきた内容を知ると若さや可能性にベットすることを一貫して行ってきた方なのではないかと思います。惜しまれつつ、2019年に47歳の若さで急逝されました。
瀧本さんについては、ご友人の武井涼子さんによる追悼の記事が読んでいてとても切なく、故人の人となりをよく表しているように感じました。
伝説の魂の講義
本書の講義は、2012年6月30日に東京大学の伊藤謝恩ホールで行われた2時間を超えるもので、伝説の講義と言われています。参加者を29歳以下に限定し、約300人の10代・20代の生徒・学生が全国から集まったそうです。
講義の章立て一つ一つが「檄」となっていて、それぞれの檄を聞き終わると受講者に武器が与えられるという内容になっています。
- 第1檄 人のふりした猿にはなるな
- 奴隷でも、猿でもなく、「人間」になろう。
- 本を読んで終わり、人の話を聞いて終わりではなく、行動せよ!
- 第2檄 最重要の学問は「言葉」である
- 「正解」なんてものはない。
- 自分の人生は、自分で考えて、自分で決める。
- そのための「思考の枠組み」として、リベラルアーツがある。
- 自分自身をよりどころとするために、学べ!
- まずは「言葉マニア」になろう。
- 第3檄 世界を変える「学派」をつくれ
- パラダイムシフトとは、「世代交代」である。
- 君と君たちが正しい選択をし続ければ、いつか必ず世界は変わる!
- 第4檄 交渉は「情報戦」
- 弱者こそ、「交渉」という名の武器を持とう。
- 常に「相手の利害」を分析せよ!
- 第5檄 人生は「3勝97敗」のゲームだ
- 自分の仮説を、試せ!
- 見込みのある人を、支援せよ!
- 仲間を、探せ!
- 目的のために、つながれ!
- 第6檄 よき航海をゆけ
「自分の力で今の世の中を変えていけ!」
講義では瀧本哲史さんご本人が言うように話があちこちに飛びます。しかし、講義の終わりのほうでは、すべて次のシンプルな主張に収束していく見事な話術に引き込まれます。
「自分で動け!」
「今の世の中を変えていけ!」
そう若者を優しく煽り、そして講義の最後に宿題を出します。その宿題の答え合わせをする日、それが講義から8年後、つまり「2020年6月30日」ということです。答え合わせの日を迎えることなく瀧本哲史さんは旅立たれてしまいました。
聞く人の胸に火をともす講義
この講義のあと、47歳で亡くなられたことを考えると、小さくてもいいからチャレンジしろ、社会を変えろと煽って勇気づける言葉の一つ一つが、瀧本さんからの遺書であるかのように感じられます。
できれば私もリアルに講義を受けたかったです。こんな迫力で行動をせまる講義を受けていたら人生が変わっていたかも知れません。瀧本哲史さんは基本的には30代以上には期待しないようなことを言っていました。それでも動き始めるのに遅すぎることはないのではないでしょうか。
うつ状態で読むと自分はいったい何をやってるんだと情けなく、消え入りたい気持ちになりますが、それでも小さく熱い何かが胸の奥にともる、そんな内容の講義でした。
瀧本さんが確かに生きた証といえる本だと思います。出版社には、だいぶ遅れてですが講義に疑似参加させてくれてありがとうとお礼を言いたくなる、そんな本でした。